2013.08.07

研究者コラム|松岡拓公雄


西の湖 廻遊路計画

 

松岡拓公雄

琵琶湖は私たちの生活を写してきた鏡です。琵琶湖は歴史、文化、生活、生き物を育み、私たちと自然を繋げてきました。西の湖はその周辺を俯瞰してみると昔から八幡山と安土山の間にあり、琵琶湖と大地とを繋ぐ場所でした。この地には自然の縮図としてのあらゆる要素があります。特に自然の循環装置でもある葦の群落が残されている貴重で特徴ある場所です。

この辺りは空も大きく水も豊富ですから、宙飛のような珍しい鳥も舞い、おなじみのカイツブリや鴨やさぎなど大勢仲間がいます。このような恵まれた環境を単に保全するのではなく、むしろ、市民が親しめ目が行き届く場所にしていく積極的な作法を考えた方が、未来に対しての市民遺産として担保していけるのではないでしょうか。具体的には葦をもっと生き生きと育て、地元の竹や木や土を使って路や休憩場など自然な手入れをすれば、居心地のよい場所、見違えるような楽しい空間に変身します。例えばバードウォッチングができる展望台、カフェやファーマーズマーケット、たいまつまつり広場、生きものから学ぶ研究所などが、この地の持つ力をさらに生かします。

歴史的な二つの山の間をゆっくりと船や自転車や徒歩で巡り、自然に触れて時を忘れ楽しむことも大事です。この自然空間で市民や訪問者が発見するのは内湖や葦の美しい景観だけでなく、意外と友達の存在や自分自身かもしれません。ここに描いたのは、「西の湖廻遊路計画」の巻物の一部です。根底にあるのは混在の美学、それぞれのあらゆる存在を認めあうことでバランスがとれている方が自然で美しい。この場が持っている独自の美や力を引き出すのは市民です。


nishinoko

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 制作:滋賀県立大学環境科学部 松岡拓公雄研究室
    西の湖廻遊路チーム/松岡拓公雄+田口真太郎+宇留野元徳 他)






prof.matsuoka松岡拓公雄
 Takeo Matsuoka
滋賀県立大学環境科学部環境建築デザイン学科教授。建築家。
1976年に東京芸術大学美術学部を卒業し、1978年に大学院美術研究科天野太郎研究室(環境建築デザイン)修了。1978年から丹下健三都市建築研究所に勤務、東京都庁コンペ終了後、1986年に仲間に呼びかけ(株)アーキテクトファイブを設立、共同主宰型の事務所とする。1999年から滋賀県立大学。2006年にアーキテクトファイブのパートナーを解体し、新たに(合)アーキテクトシップを東京と滋賀に設立。以後、関東と関西にて教育、設計活動に従事。地産地消型環境建築を研究実践している。作品に札幌モエレ沼公園、鳥取県立フラワーパーク、三戸町役場、栃木エコプレミアムセンターなど。建築学会賞業績賞、土木学会デザイン賞最優秀賞、グッドデザイン大賞、BCS賞、日本建築美術工芸協会賞など受賞。



出典:近江八幡 草の根まんだら 第1号(近江八幡商工会議所, 2011)

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