2012.09.28

研究者コラム|足立直樹


自然に学ぶ 生きものに学ぶ

 

株式会社レスポンスアビリティ代表取締役

足立直樹

 

自然に学ぶ、生物に学ぶというと、なんだかまた古くさいことを言ってと思われるかもしれません。たしかに自然や生きものは昔から身近にあったものですから、最先端技術のハイテクと比べると、古ぼけた、新しみがないもののように感じてしまうかもしれません。

 

けれど、本当にそうなのでしょうか? 私たちはもう生きもののことを知り尽くし、私たちの技術や文明は、生物の持つ仕組みを既にはるかに越えたものなのでしょうか?

 

その答えはもちろん「ノー」です。そもそも私たちは、この地球上に、いや近江八幡市の中にだって、どれだけの種類の生きものがいるかすら知りません。例えば、地球上には全部で3000万種とも、5000万種とも呼ばれる生物がいる「らしい」のですが、その正確な数はわかりません。すべての生きものを見ることなど、とても出来ないからです。そもそも、これまで世界中の研究者がその存在を知っている生物の数は、わずかに190万種ぐらいと言われています。つまり、世界中の研究者の知識をあわせても、私たちが多少とも知っているのは全体の5%程度、95%を私たちは知らないのです。私たちはほとんど知らないと言った方がむしろ正確でしょう。

 畑の土をすくうと、その土壌1グラムの中には1億の微生物がいると言われています。もちろん名前が付いているものはごくわずかです。その小さな土くれの中にすら、私たちの知らない生きものがごまんといるのです。

ましてや一つひとつの生きものがどんな生活を送っているのか。どんな物質を作り出すのか。どんな性質をもっているのか。私たちはそんなことはまったく知らないのです。私たちが生きものについて知っていることは、本当にごくごくわずかなのです。

 

物理学や化学の知識を駆使して作られた工業製品は新しくてカッコ良い。木や竹などを使って作られたものは古臭くてイケていない。私たちはついそんな風に考えてしまいがちです。

でも、考えても見てください。地球上に存在するこれほど多様な生きもののうち、私たちは一種類でも作り出したことがあるでしょうか? もちろん私たちは畑で野菜を育てることはできますし、最近の科学技術を使えば、生物のもつ遺伝情報、つまりDNAの塩基配列を「読む」ことはできます。しかし、私たち人間は、いかなる簡単な生命も、ゼロから作り上げることは未だできないのです。複雑なキカイよりも、簡単な生命を作る方が、はるかに難しいのです。

 

一方、生きものはいとも簡単に自分の子孫を残します。私たちは生きものを切り刻み、分解して、それが何から出来ているかは分析することが出来ます。しかし、それを組み立てることはできないのです。私たちは生きものの仕組みや、それを使いこなす技術をまだ持ち得ていないのです。

 

つまり、生物が遅れているのではなく、遅れているのは生物を扱う私たちの技術の方です。まだまだ私たちが学ぶことはたくさんあります。

 

では、例えば私たちは具体的にどんなことを自然に、生きものに学ぶことができるのでしょうか。

 

アリは一匹一匹は数mg程度と大変に小さな生きものですが、地球上には約1京(けい)匹、つまり1億のさらにまた1億倍という途方もない数が存在します。そのため、アリの総重量は70億人の人間の総重量に近い値になるのだそうです。

 

ところがアリの世界で、ゴミ問題が起きたという話は聞いたことがありません。もちろんアリもゴミを出しますし、その総量は大変な値になるはずです。しかし、自然の中で利用できるものを使って、自然が分解できるものしか作り出さないので、自然の循環を妨げるような扱いに困るゴミを出すことはないのです。アリは自然のルールにしたがって、生活をしているのです。だからこそ、アリは何千年、何万年、いやもっと長い間、生き続けることが出来たのです。

 

私たちが学ぶべきは、まさにこの点でしょう。自然のルールにしたがって、どう持続可能な生活を作りだすか。未来永劫続く生活、続く街を作るヒントは、自然と生きものが持っているはずです。

 

 
足立直樹
 Naoki Adachi
株式会社レスポンスアビリティ代表取締役。東京大学理学部・同大学院卒、理学博士.国立環境研究所、マレーシア森林研究所を経て、コンサルタントとして独立。「2025年を創る会社」を掲る。日本生態学会常任委員、環境省生物多様性企業活動ガイドライン検討会委員。
出典:近江八幡 草の根まんだら 第1号(近江八幡商工会議所, 2011)

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